#53 葉月 岩手の経塚群 ―12世紀、奥州藤原氏時代を中心に④―
2018年8月9日
◇12世紀の経塚群
岩手県内には、現在までのところ30か所前後の12世紀の経塚が所在すると思われる。それらの残存状況や情報には精粗があるが、凡そ、以下のような理由で経塚と推定できる。
▼塚より経筒等が出土
寺ノ上・金鶏山経塚・三熊野社毘沙門山(びしゃもんやま)経塚群北(きた)経塚・丹内山神社経塚東(ひがし)経塚。
▼調査により経塚と確認
南部工業団地K区(北上市)・丹内山神社経塚・山屋館経塚・城内山頂遺跡。
▼塚と出土遺物が残存
鹿野畑経塚・金鶏山経塚・寺ノ上経塚・万松寺経塚・三熊野神社毘沙門山経塚群北経塚・高松山経塚群綱森(つなもり)・土踏まず丘経塚・西方寺毘沙門堂経塚。
▼塚は残存しないが、経塚と登録され、遺物も現存
高倉山東の森(ひがしのもり)経塚・三熊野神社毘沙門山経塚群南西(なんせい)経塚・高松山経塚群・同鉞塚(まさかりつか)・真行寺経塚・湯壺経塚(ゆつぼ、盛岡市)・一本松経塚(いっぽんまつ、盛岡市)。
▼塚は消滅、遺物が現存
五輪塚(ごりんづか、旧前沢町)越戸内経塚
▼経塚資料とされた遺物が現存
三子田経塚(みこだ、旧水沢市)
▼塚が現存
鈴掛けの森経塚(すずかけのもり、平泉町)・玉山館経塚(たまやまだて、旧玉山村)
▼遺物の種類・出土状況から
火石森(ひいしもり、旧水沢市羽田)・豊田舘跡(とよたのたちあと、旧江刺市)・高勝寺跡・新山神社(にいやま、北上市)・小瀬川Ⅰ遺跡(こせがわ、花巻市)・新山神社境内遺跡(にいやまじんじゃ、紫波町)・伝比爪館遺跡・花立地区(はなだて、紫波町)・内村遺跡
◇岩手県内12世紀経塚遺跡一覧
①高倉東ノ森経塚(旧花泉町永井、常滑三筋文壺(とこなめ・さんきんもんこ)・2個体、12世紀後半)
②鹿之畑経塚・2基(旧花泉町日形、常滑三筋文壺、12世紀後半)
③金鶏山経塚(平泉町花立、複数基存在、銅製経筒3点・石製経筒外容器・渥美袈裟襷文壺(あつみ・けさだすきもんこ)・平瓦(ひらかわら)・土師器皿・常滑甕5点・常滑三筋文壺・碗残欠・鉄鏃残欠・刀身残欠・砂金・宝珠ほか、12世紀前半~後半)
④鈴懸けの森経塚(平泉町大沢、石室残存)
⑤寺ノ上経塚・4基(旧前沢町古城、渥美壺、壺の周囲を法華経墨書の「かわらけ経」であ充填)
⑥五輪塚(旧前沢町白山、珠洲(すず)焼きの波状文壺(はじょうもんこ))・常滑三筋文壺、12世紀後半)
⑦三子田(みこでん)経塚(旧水沢市佐倉河谷地、常滑三筋文壺、12世紀後半)
⑧火石森経塚(旧水沢市羽田、常滑三筋文壺、12世紀後半)
⑨豊田舘跡(旧江刺市岩谷堂餅田、福建省産白磁四耳壺(はくじ・しじこ)、11世紀末~12世紀初期)
⑩万松寺経塚(旧江刺市岩谷堂増沢、渥美壺、12世紀後半代)
⑪高勝寺跡(こうしょうじ?、旧江刺市稲瀬、長承四年(1135)在銘石櫃、墳墓か経塚か)
⑫大日前遺跡(だいにちまえ、旧江刺市田原、珠洲焼き波状文四耳壺(はじょうもん・しじこ)、12世紀後半)
⑬南部工業団地遺跡K区(北上市相去町、渥美刻文壺、12世紀後半~後半)
⑭新山神社(北上市口内町、常滑三筋文壺、12世紀後半)
⑮須々孫館跡経塚(旧和賀町煤孫、エヒバチ長根窯産壺・常滑三筋文壺、12世紀後半)
⑯丹内山神社経塚・2基(旧東和町丹内、東経塚に石製経筒と銭貨、西経塚に白磁四耳壺・湖州鏡・銭貨、12世紀後半)
⑰三熊野毘沙門山経塚群(4基)北経塚(旧東和町北成島、銅製経筒・陶製経筒・石櫃・銅鏡・刀身・鉄鏃・土製皿、12世紀後半)
⑱ 同 南西経塚(常滑三筋文壺、銅鏡、12世紀後半)
⑲真行寺経塚(旧東和町小山田、常滑三筋文壺、12世紀後半)
⑳高松山経塚群綱森(花巻市高松、常滑三筋文壺、12世紀後半)
㉑ 同 銊塚(常滑甕・渥美片口鉢、12世紀後半)
㉒ 同 経塚(一字一石経塚、白磁四耳壺、12世紀後半)
㉓小瀬川Ⅰ遺跡(花巻市小瀬川、珠洲波状文壺、12世紀末~13世紀)
㉔新山神社境内遺跡(紫波町土館、常滑三筋文壺、12世紀後半)
㉕比爪館跡(紫波町北日詰、珠洲壺、12世紀後半)
㉖花立地区(紫波町大巻、常滑三筋文壺、12世紀後半)
㉗山屋館経塚(4基)1号居塚(紫波町山屋、珠洲系波状文四耳壺、12世紀後半)
㉘ 同 4号経塚(常滑三筋文壺、12世紀後半)
㉙城内山頂遺跡(矢巾町煙山、渥美袈裟襷文壺、12世紀中葉)
㉚湯壺経塚(盛岡市湯沢、常滑二筋文壺、12世紀後半)
㉛内村地区(盛岡市飯岡、常滑甕、12世紀後半)
㉜一本松経塚(盛岡市繋、渥美壺、12世紀第2四半期、大アラコ窯)
㉝玉山館経塚(旧玉山村、陶器壺、詳細不明)
㉞西方寺毘沙門堂経塚
㉟土踏まずの丘経塚
㊱越戸内経塚
相原康二(あいはらこうじ)
1943年旧満州国新京市生まれ、江刺郡(現奥州市江刺)で育つ。
1966年東北大学文学部国史学科(考古学専攻)卒業後、7年間高校教諭(岩手県立高田高校・盛岡一高) を務める。1973年から岩手県教育委員会事務局文化課で埋蔵文化財発掘調査・保護行政を担当。その後は岩手県立図書館奉仕課長、文化課文化財担当課長補佐、岩手県立博物館学芸部長を歴任し、この間に平泉町柳之御所遺跡の保存問題等を担当。2004年岩手県立図書館長で定年退職後、(財)岩手県文化振興事業団埋蔵文化財センター所長を経て、2009年えさし郷土文化館館長に就任。
岩手県立大学総合政策学部非常勤講師(2009年〜)
岩手大学平泉文化研究センター客員教授(2012年〜)
2024年えさし郷土文化館館長退任