館長室から

#45 師走 考古学から「平泉文化」を考える㊱
木材の使い分け

2017.12.9

平泉町の柳之御所遺跡の堀や井戸跡から様々な木製品が出土している。それらは機能別に分類されるとともに、使用された木材の樹種鑑定も行われている。当時の植物相・古環境の復元や、用途による木材の使い分けの有無を確認するためである。以下にその一部を示す(『柳之御所遺跡』1995(財)岩手県文化振興事業団埋蔵文化財センター発行より)。

 

◆木製品の種類

* 飲食具・調理具―箸・折敷・杓子・匙状・箆・曲物
* 容器類―曲物・箱・椀・皿ほか
* 工具類―刀子の柄・鞘、箆状、木槌状
* 武具・馬具―刀の柄・鞘、鞍
* 漁撈具―網針
* 紡織具―糸巻き・紡輪
* 服飾具―櫛・扇・下駄
* 文房具・裁衣具―物差(曲釈)・鯨尺
* 遊戯具―毬・羽子板状・竹トンボ・独楽・将棋駒
* 祭祀具―笹塔婆・呪符・各種の形代(人形・鳥形・刀形・五輪塔形ほか)
* 部材―建物部材・道具部材
* 雑具類―御簾錘・留針・火鑚板・籌木
* その他―飾り具・楔状ほか
* 用途不明―櫛歯状・鋸歯状

このように日常生活の具体層相を示す遺物も、立派な「平泉文化遺産」なのである。

 

◆使用された木材の傾向

出土した木製品のすべての樹種鑑定は実施されていないのが残念であるが、用途選択の傾向は把握できる。
* 飲食具では箸・折敷・杓子はスギが際立って多く、アスナロ(ヒバ)が続く。
* 容器では曲物はスギ、椀・皿はケヤキが際立つ、木釘はアスナロに特定されるか?
* 工具類は刀子の柄はモクレン属・スギ・アスナロが使用され、箆状はスギが多い。
* 武具の鞘はスギが主体。
* 紡織具の糸巻きの枠木・横木ともアスナロとヒノキが主に選択され、スギが続く。
* 服飾具の横櫛はイスノキ・ツゲ、扇の骨はスギと竹、下駄は差歯・連歯下駄ともにケヤキ・クリが多い。
* 文房具の物差類はヒノキ・アスナロである。
* 遊具類の羽子板はモクレン属、竹トンボはアスナロ、独楽はケヤキ、将棋駒はカヤである。
* 祭祀具はいずれもスギが卓越し、アスナロが若干混じる。
* 部材の羽風板や板材はスギ、礎板(そばん、柱穴の底に敷く板)にクリが選択。井戸枠はスギとアスナロの双方がある。
* 雑具の留針・籌木はスギが卓越。なお籌木にはアスナロ・ネズコ・クリなどが混在するのは、籌木は外の木製品の材が転用されたことによるものであろう。
* 柳之御所遺跡の堀にかけられた橋の橋脚と板材はクリ、倉町遺跡出土の高床倉庫の面取りされた柱材もクリであった。
地元産の材を多用しながら、用途による材の使い分けが明らかに存在したこと、また、櫛におけるイスノキ・ツゲなど、用途によっては東北地方以外の材も流入・使用されていることに注意したい。

考古学から「平泉文化」を考える
相原康二

相原康二(あいはらこうじ)

1943年旧満州国新京市生まれ、江刺郡(現奥州市江刺)で育つ。
1966年東北大学文学部国史学科(考古学専攻)卒業後、7年間高校教諭(岩手県立高田高校・盛岡一高) を務める。1973年から岩手県教育委員会事務局文化課で埋蔵文化財発掘調査・保護行政を担当。その後は岩手県立図書館奉仕課長、文化課文化財担当課長補佐、岩手県立博物館学芸部長を歴任し、この間に平泉町柳之御所遺跡の保存問題等を担当。2004年岩手県立図書館長で定年退職後、(財)岩手県文化振興事業団埋蔵文化財センター所長を経て、2009年えさし郷土文化館館長に就任。

岩手県立大学総合政策学部非常勤講師(2009年〜)

岩手大学平泉文化研究センター客員教授(2012年〜)

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